キキオです。
今日も『キキオ案内所』をお読みいただきありがとうございます。
※2023年7月10日追記
むかし家今松師匠が、2023年7月中席、上野鈴本演芸場・夜の部で主任(トリ)を務められます。
今回はネタを始めに知らせておく、いわゆるネタだしでおこなわれます。
気になっている方は是非とも上野鈴本演芸場に行って、生の今松師匠を観てください。
今年はわたしも何日か、行きたいと思っています。
11日からのネタは以下のとおり。
持ちネタの多い今松師匠らしい、10日間になっています。
特別企画公演『夏の今松 精選十夜』
初日:天狗裁き
2日目:笠碁
3日目:ざこ八
4日目:へっつい幽霊
仲日:唐茄子屋政談
6日目:質屋蔵(「質屋庫」と言う表記もありますが今回の公式ページではこの表記です。)
7日目:一人酒盛
8日目:おせつ徳三郎
9日目:居残り佐平次
千秋楽:阿三の森
詳細は鈴本演芸場のホームページでご確認ください。
個別のページはこちら。(終了しました。)
※2022年7月11日追記
むかし家今松師匠が、7月中席、上野鈴本演芸場・夜の部で主任(トリ)を務められます。
今回はネタを始めに知らせておく、いわゆるネタだしでおこなわれます。
東京近郊在住の方、気になっている方は是非とも上野鈴本演芸場に行って、生の今松師匠を観てください。
わたしは行くことができないので、とってもうらやましいです…。
11日からのネタは以下のようになっています。
初日:定休日(寄席自体お休みです。)
2日目:笠碁
3日目:天狗裁き
4日目:甲府ぃ
仲日:水屋の富
6日目:へっつい幽霊
7日目:帯久
8日目:茶金
9日目:長崎の赤飯
千秋楽:品川心中
詳細は鈴本演芸場のホームページでご確認ください。
個別のページはこちら(終了しました。)
七代目むかし家今松(以下敬称略)。
むかしやいままつ。
わたしが東京在住の約15年間、もっとも熱心に追いかけた落語家です。
2021年11月鈴本演芸場上席後半、夜の部の主任、いわゆる「トリ」を師匠が務められます。
8日が休演ですが、6日「三井の大黒」7日「らくだ」9日「質屋庫」10日「茶の湯」がネタ出しされています。
うーん、行くことができないのでとってもうらやましい。
これを読んでいる方で少しでも気になった方。
すぐに観にいくことをおすすめします。
落語は、生でその場を共有するもの。
むかし家今松と言う噺家を聴く意味は、落語が好きな方、気になっている方、これから落語を聴いてみたい方、皆さんにあります。
好きな人と会いたいときに会わないと後悔だけが残ります。
ずっとずっと続いていくことはありません。
いつだって聴ける、なんてことはないのです。
会いたいときに会いに行きましょう。
公式サイトがとても充実しています。
こちらもあわせて、おすすめします。
「十代目金原亭馬生」との出会い
話はここから始めます。
大きな意味で、「落語」との出会い。
それはラジオでした。
落語を含む多くの芸人を、昭和末期、子どもの頃、ラジオで知りました。
テレビももちろんありましたが、わたしはラジオ。
特に夜から深夜にかけてのラジオをたくさん聴きました。
家族の影響で、大きなアンテナを立てて、東京や大阪はじめ全国のAM放送(中波放送)や短波放送を夜な夜な布団の中で、イヤホンを通して聴いていました。
記憶が定かではないのですが、なんという番組だったか…夜の演芸番組だと思います。
番組名は忘却のかなたでわかりませんが。
十代目金原亭馬生(きんげんていばしょう)の落語が流れました。
演目は「柳田格之進」。
ココロをつかまれました。
地味ではあるし、子どもなのに良くその良さがわかったなとも思いますが、とにかく大好きな噺家になりました。
どんな落語家さんなのか、どんな顔をしているのか、どんな空気で語るのか。
想像がどんどん膨らみました。
80年代当時。
インターネットはありません。
今のように「検索」できる時代ではありませんから、とにかく想像をたくましくするしかなかったのです。
古今亭志ん生の長男だ、とか、弟が古今亭志ん朝だ、とか、娘が女優の池波志乃だ、とか、そういう情報はまったくありませんでした。
ただただ、その墨絵のような端正な語り口に夢中になりました。
馬生の語り口からわたしは白黒の世界を想像していました。
ところが…CDのブックレットの解説で、馬生は1982年、54歳の若さで亡くなっていたことを知ります。
ただただ、ショックでした。
いつか東京に行って、寄席というところに行って、馬生の落語を生で聴くのだ!
その想いは崩れ去りました。
人生の中で明確に、「会いたい時に会いたい人に会おう」。
そう決めた出来事でした。
馬生師匠については、あらためて書きたいと思います。
「むかし家今松」との出会い
90年代半ば、大学に進学するため、わたしは上京しました。
「寄席に通える!」。
それは大きな喜びでした。
勉強はどうした…と思いますが…。
金原亭馬生のような噺家に出会いたい。
そう思ったわたしは金原亭馬生の弟子を観よう!と方針を固めます。
都内には4つの定席(じょうせき)と呼ばれる寄席と、国立演芸場があります。
わたしは、新宿末廣亭、池袋演芸場、上野の鈴本演芸場に良く通いました。
特に新宿と池袋は、昼の部と夜の部の入れ替えがないので、お昼12時くらいからから夜9時くらいまで、ずっと寄席にいることが多くありました。
暇だったし、お金もなかったのです。
(末廣亭は毎週土曜日、通常興行の後、二ツ目による「深夜寄席」があるので、いったん外に出てまた入って、23時くらいまで聴き続けました。)
8時間から9時間、何日も落語はじめとした演芸を観続けていると、「ランナーズ・ハイ」のような不思議な感覚になりました。
当時はとにかく喜びばかりで、9時間座っていることもなんとも思いませんでした。
金原亭馬生の弟子である師匠方をとにかく追いかけました。
馬生の死後、金原亭伯楽の門に移った現十一代目馬生なども追いかけました。
弟子だけにとどまらず、孫弟子もとにかく見まくりました。
その中でも、特に。
むかし家今松。
夢中になりました。
馬生に感じていた、端正な語り口。
墨絵のような、パリッとした世界。
むかし家今松の語り口、言葉を発するときの空気には、馬生から感じたものが、確かに目の前にありました。
馬生の空気を一番感じさせてくれたのがむかし家今松でした。
ご本人は、そう言われると嫌なのかな。
あるいは照れるのかな。
その出会いから現在に至るまで、七代目むかし家今松が一番好きな噺家です。
地方都市在住でもありますし、このような世界の現在、なかなか聴きに行くことができていませんが、すぐにでも行かなくてはと思います。
だって、会えなくなってからでは遅いのだから。
むかし家今松、新宿末廣亭、12月下席夜の部、15年間主任を務める。
そんなむかし家今松、2004年から2018年までの15年間。
新宿末廣亭の12月下席(寄席ではいわゆる「下旬」を「下席」と呼びます。上中は上席、中席です)、夜の部で主任、いわゆるトリを務めました。
本来は10日間ですが、12月年末は変則的で28日までの8日間です。
2004年から毎年通いました。
多い年は8日のうち、5日通いました。
2004年の落語はそこまで人気はなかったと記憶しています。
長瀬智也と岡田准一が主演を務めたTBSのドラマ『タイガー&ドラゴン』の初回2時間の回が放送されたのが翌年1月と言う状況です。
お客さんは曜日などの関係で多かった時もありましたが、少ない時もありました。
何年か通っていると、同じように何年も通っている方をお見かけすることも多々ありました。
途中で、わたしは東京から地方都市に居を移すことになりましたが、15年間通いました。
毎日は無理でしたが…。
毎年28日最後は「芝浜」と決まっていましたが、それ以外の日は何がかかるかわかりません。
落語には、噺家を選ぶことはできるが、噺・ネタは選べないと言う特徴があります。
もちろん11月の鈴本演芸場のように、ネタ出しされている場合もありますが、決まっていないことのほうが多いのです。
そこが、落語の面白さの一つでもあり、難しさの一つでもあります。
年末は世間があわただしく、末廣亭のある新宿三丁目も空気が張り詰めています。
特に26日以降のクリスマス後。
あのピンと張り詰めた空気が好きです。
その空気とむかし家今松のたたずまいが合っていて、この時期に聴くむかし家今松は特別なものでした。
そんな中、印象に残っている噺は、なんといっても「柳田格之進」。
わたしが師匠・馬生にココロをつかまれた噺です。
その「柳田格之進」。
15年で2回聴くことができました。
2回とも印象深い高座でした。
1回目は、出てくる武士のパリッとしたたたずまいを浴びるように感じて、幕が降りてもしばらく立ち上がることができませんでした。
2回目は、2018年、最後の年でした。
その時は一緒に行った落語好きの友人が、寄席の後の居酒屋で終始ボーっとしていました。
年末の恒例行事でしたから、終わってしまったのは残念ですが、多くの高座に接することができて、わたしは本当に幸せでした。
キキオの想い…本当は弟子になりたかった!
22歳ぐらいの時、本気で噺家になろうと思いました。
噺家になるには、弟子入りすることが絶対条件です。
そういう世界です。
大変生意気ながら、「弟子入りするなら今松師匠しかいない!」と勝手に思っていました。
いろいろなことがあり、実現はしませんでした。
きっともし弟子入りしていたら今ごろ「むかし家今いち」などと名乗り、いまいちな芸をしていたに違いありません。
(現在、落語芸術協会の古今亭今輔師匠のところに「今いち」さんがいらっしゃいますが、わたしが夢想したのはそのはるか前のことです。お許しください。)
現在、76歳。
現在までお弟子さんはいません。
恥ずかしがり屋の師匠のことですから、いろいろなお考えがあってのことだと思います。
もし、世界が違っていて、自分が弟子になっていたら…。なれていたら…。
そんなことを20年以上経った今になって考えます。
むかし家今松と師匠・金原亭馬生の根多(ネタ)の数
立川談志をして「ありとあらゆる落語をやっている」と評された十代目金原亭馬生。
弟子であるむかし家今松の持っているネタも膨大です。
公式ホームページの記載によると「177」のネタをお持ちだそう。
これは現在の噺家の中でもかなり多いのではないでしょうか。
2008年に出た柳家花緑の『落語家はなぜ噺を忘れないのか』(名著!)を読むと、この数がすごいことが確認できます。
馬生一門には、持ちネタが多い師匠がいるのも特徴です。
蛇足ですが、「根多」とは「ネタ」の当て字です。
仕事の種などと使う「タネ」がひっくり返って「ネタ」と呼ばれるようになったらしい。
江戸時代から使われていると聞いたことがあります。
むかし家今松を観るならここ
恥ずかしがり屋の師匠だからなのか、ほとんど音源がありません。
公式ホームページにも記載がありますが、なかなか手にすることは難しい状況です。
もちろん生で触れていただくのが一番良いのですが、わたしも含め地方在住の方はなかなか難しい。
また世界のこの状況で、なかなか出かけるのが難しい方もいるかと思います。
インターネット配信でもなかなか観ることができませんが「U-NEXT」に、師匠の2016年の高座の映像が3席あります。
「唐茄子屋政談」と「鮑のし」と「夏の医者」です。
この3席の映像は2016年の国立演芸場での独演会を収録したものです。
映像は、生で観るのとはもちろん違いますが、細かい表情、所作などがわかり、これもなかなか良いものです。
「U-NEXT」の今松師匠の映像はいわゆる「見放題」に含まれます。
31日間の無料お試し期間もありますので、ご興味ある方はぜひ観てみてください。
師匠の芸の良さが少しでも伝わっていただけると嬉しいです。
(本ページの情報は2023年10月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください。)
U-NEXTについては別の記事にまとめました。
こちらもご参照ください。
最後に
大好きな噺家「七代目むかし家今松」について書きました。
最後に拝見したのは 2019年、国立演芸場で観た「島鵆沖白浪」(しまちどりおきつしらなみ)でした。
今後も時間をしっかり作って、師匠の高座にうかがいたいと思います。
まだ師匠の落語を観たことがない落語好きの方!
もしいらっしゃいましたらぜひ!
これから落語を聴いていきたい方もぜひ!
良いものを観たな、と思っていただく自信があります。
むかし家今松。
おすすめです。
今後『キキオ案内所』では、現役の落語家、亡くなった名人と呼ばれる落語家、また初めて落語を観る方に向けた寄席・落語会にまつわるあれこれ、用語の解説、落語を取り巻く批評・書籍・人物などについても書こうと思います。
お楽しみに、お待ちください。
今回もお読みいただきありがとうございました。
キキオ
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